あなたは、忙しい起業家との約束の時間が「30分だけ」と告げられたことはありませんか?
私が初めて注目の若手経営者にインタビューした日、ちょうどそんな状況でした。
大学時代からライターとして活動していた私は、同級生が立ち上げたスタートアップの広報記事を依頼され、胸を膨らませてインタビューに向かいました。
しかし現実は厳しく、「急な会議が入ってしまって、30分しか時間が取れない」と言われてしまったのです。
その30分で私は何を聞き、どんな記事を作れば良いのか。
頭が真っ白になりました。
結果的に、その日のインタビューは散漫なものとなり、「起業家の思いが伝わらない薄い記事」になってしまいました。
この失敗から、私は限られた時間で本質に迫るインタビューのコツを徹底的に研究するようになりました。
今では祖父の和菓子店再建プロジェクトから若手IT起業家まで、様々な経営者の「本音」を引き出すことを得意としています。
この記事では、森智宏氏のような忙しい起業家からでも深い話を引き出し、魅力的な記事に仕上げるためのコツをお伝えします。
インタビュアーとしての5年間で培った経験と、成功・失敗の両方から学んだノウハウを惜しみなく共有します。
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森智宏の経営哲学~株式会社和心の未来展望~
限られた時間を最大限活用するインタビュー準備
インタビューの成功は準備で9割決まると言っても過言ではありません。
特に時間が限られている場合、下準備の質がそのまま記事の深さに直結します。
以下に、私が実践している3つの準備ステップをご紹介します。
事前リサーチの徹底:SNSや過去の活動から相手の核心に迫る
起業家の公開情報をすべて集めることから始めましょう。
具体的には:
- 公式SNSアカウントの過去3ヶ月分の投稿を確認
- Twitterなら「いいね」している投稿から関心事をチェック
- YouTubeやPodcastの出演歴を視聴し、話し方のパターンを把握
- 会社のプレスリリースから最新の事業展開を理解
- 過去のインタビュー記事で「繰り返し語られているエピソード」を特定
例えば、ある女性起業家のTwitterを分析したところ、「子育てと起業の両立」について多くつぶやいていましたが、公式インタビューではその話題に触れていませんでした。
インタビューでこの点を質問したところ、「実はそこが一番話したかったテーマ」と深い話を引き出すことができました。
SNSは特に有効です。
公式の場では語られない本音や、繰り返し言及されるテーマから、その起業家の「核」となる価値観が見えてきます。
ターゲット質問リストの設計:深掘り&共感を呼ぶポイントを見極める
質問リストの作り方は以下の3段階で考えるのが効果的です。
- 必須質問(5問):絶対に聞きたい核心部分
- 展開質問(10問):状況に応じて掘り下げる質問
- 予備質問(3問):会話が途切れたときの万能質問
必須質問は時間内に必ず聞けるよう、優先順位をつけておきましょう。
また、質問は箇条書きではなく、会話の流れを想定した構成にします。
📋 質問リスト例
【必須質問】
- 起業のきっかけは何だったのですか?(入口質問)
- 事業を進める中で最も困難だった瞬間は?
- その困難をどう乗り越えたのですか?
- 今後の展望について教えてください
- 同じ道を目指す人へのアドバイスは?
【展開質問】
- なぜそのとき諦めなかったのですか?
- 周囲の反応はいかがでしたか?
- 経営判断で最も大切にしている価値観は?
- 等…
この質問リストは固定ではなく、会話の流れに応じて柔軟に対応するためのガイドラインです。
空気を和ませるアイスブレイク:自然な対話をスタートさせるコツ
緊張した空気の中では良い会話は生まれません。
特に時間が限られている場合こそ、最初の数分で信頼関係を築くことが重要です。
効果的なアイスブレイクの例:
- 事前リサーチで見つけた共通点に触れる
- 相手の最近の成果や投稿に具体的な感想を伝える
- インタビューの目的と読者層を明確に伝え、安心感を与える
私が実際に使っているのは「場所」に関する話題です。
「このオフィス、とても素敵ですね。この場所を選んだ理由はありますか?」という質問は、ほとんどの経営者が答えやすく、自然に会話が広がります。
また、インタビュー冒頭で「今日はお忙しい中、貴重なお時間をいただきありがとうございます。限られた時間ですが、〇〇さんの大切にしている価値観を読者に届けられるよう、じっくりお話を伺えればと思います」と伝えることで、相手も「本質的な話をしよう」という意識になります。
インタビュー現場での引き出し方
いよいよ本番のインタビュー。
限られた時間の中で、どのように相手の本音を引き出していくかを説明します。
ここでは、私が実践している3つのテクニックを紹介します。
会話形式の強み:相手に「語りたくなる」雰囲気づくり
ステップ1: まず、質問と回答という形式にこだわりすぎないこと。
自然な会話の流れを大切にしましょう。
ステップ2: 相槌を工夫することで、相手の語りを促進します。
「なるほど」「それは興味深いですね」といった定型の相槌ではなく、「そこでそう判断されたのは、〇〇という価値観があったからでしょうか?」と、内容に踏み込んだ反応をしましょう。
ステップ3: 自分の経験を少し共有することで、対等な対話を演出します。
「私も似たような経験があります」と共感を示すことで、相手も深い話をしやすくなります。
特に効果的なのは、質問の後の「沈黙」を恐れないことです。
多くのインタビュアーは沈黙が怖くて、相手が考える時間を奪ってしまいます。
しかし、3秒の沈黙の後に出てくる言葉こそ、本音であることが多いのです。
ストーリーを広げるエピソードトークへの誘導
抽象的な質問よりも、具体的なエピソードを引き出す質問が効果的です。
例えば:
- ×「起業は大変でしたか?」
- ○「起業直後の最も印象に残っている出来事は何ですか?」
エピソードを引き出すためのフレーズ集:
- 「その瞬間、具体的にどんなことを考えましたか?」
- 「その日の様子をもう少し詳しく教えていただけますか?」
- 「それを聞いたとき、最初に浮かんだ感情は?」
こうしたエピソード質問で得られた具体的な話は、記事の中でも読者の心に残りやすいコンテンツになります。
また、エピソードを引き出した後は「なぜ」の質問で深掘りしていきます。
「なぜそう判断したのですか?」「なぜその選択肢を選んだのですか?」と問いかけることで、表面的な事実から、その背景にある価値観や思考プロセスを明らかにできます。
相手を認めながらも鋭く踏み込むフォローアップ質問
良いインタビューとは、相手が普段あまり語らないことを引き出せた時に生まれます。
そのためには、「認める→踏み込む」というパターンが効果的です。
具体的な例:
「御社の急成長は本当に素晴らしいと思います。(認める)一方で、急成長ゆえの社内コミュニケーションの課題などはありませんか?(踏み込む)」
このような質問テクニックのポイントは3つあります:
- まず相手の成果や考えに対して肯定的なフィードバックを行う
- その上で、一般論ではなく具体的な懸念点や課題を提示する
- 質問のトーンは批判的ではなく、「一緒に考えたい」という姿勢を示す
私が若手経営者にインタビューした際、「事業の成長速度に経営者としての成長が追いつかず不安になることはないですか?」と質問したところ、「実は毎晩そのことで眠れないんです」という本音を引き出せました。
この回答は記事の核となる部分になり、多くの読者から共感の声をいただきました。
インタビュー内容を活かす記事構成
インタビューを終えたら、次は記事化のフェーズです。
いくら素晴らしいインタビュー内容でも、記事構成が適切でなければ読者には伝わりません。
ここでは、インタビュー内容を最大限に活かすための記事構成のポイントを解説します。
読者が「自分もできるかも」と思う視点の盛り込み方
インタビュー記事の魅力は、読者が自分自身を重ね合わせられるかどうかにかかっています。
経営者の成功体験をただ羅列するのではなく、「読者自身も実践できる要素」を意識的に盛り込むことが重要です。
具体的な方法としては:
- 成功の前にあった失敗や挫折のエピソードを必ず含める
- 「このとき私が学んだことは…」という学びのポイントを明示する
- 小さな一歩から始められる具体的なアクションを提案する
例えば、ある成功起業家のインタビューでは、「最初の事業計画書は10回以上書き直した」というエピソードを記事の冒頭に配置しました。
これにより読者は「完璧な計画から始める必要はない」という安心感を得られます。
また、「一番大切なのは行動すること。私が最初にしたのは、周囲の5人に自分のアイデアを話すことでした」といった具体的な第一歩を示すことで、読者が「自分にもできそう」と感じるきっかけを作れます。
SNSマーケ視点で考える要点整理:拡散しやすいまとめ方
インタビュー記事をSNSで拡散させるためには、「共有したくなるポイント」を意識した構成が必要です。
これには3つの重要な要素があります:
- 引用可能なフレーズを見出しに使う
経営者の言葉の中から、短く力強いメッセージを抽出し、見出しやブロック引用として活用します。 - 視覚的にわかりやすいポイント整理
長いインタビュー内容を3〜5つの核心ポイントに整理し、箇条書きやナンバリングで提示します。 - 共感と驚きのバランス
読者が「わかる!」と思える共感ポイントと、「知らなかった!」と思える意外性を両方含めることで、シェアしたくなる内容に仕上げます。
実際の例として、私が手がけたIT起業家のインタビュー記事では、以下のように要点を整理しました:
📱 山田太郎氏が語る起業成功の3ヶ条
- 「完璧な計画より、不完全な行動」
- 「最初の顧客は友人ではなく、本当に困っている人を探せ」
- 「起業家の資質は才能ではなく、諦めない習慣である」
この形式は特にTwitterやLinkedInでの拡散率が高く、記事本編への誘導効果が高いことがわかっています。
起業家の本音を浮き彫りにする見出しとリード文の工夫
インタビュー記事の顔とも言える「見出し」と「リード文」は、読者の興味を引くための最も重要な要素です。
ここでは、起業家の本音を効果的に伝えるためのコツを紹介します。
見出しの作り方:
- インパクトのある「言葉」を活用する
- 数字を含めることで具体性を持たせる
- 対比や逆説を用いて興味を引く
実際の見出し例:
- 「売上100億円の裏側で、毎晩泣いていました」
- 「35歳で起業、40歳で廃業、42歳で再起業した私の教訓」
- 「成功するのが怖かった」京都発、注目ベンチャーCEOの告白
リード文(導入部分)では、記事全体のエッセンスを凝縮しつつも、すべてを明かさないことがポイントです。
1〜2段落で読者の興味を引き、「続きを読みたい」と思わせる文章構成を心がけましょう。
効果的なリード文の構造:
- 1文目:意外性のある事実や発言
- 2文目:なぜそれが重要なのか、コンテキストの提供
- 3文目:この記事を読むことで得られるメリット
この構造に従うことで、読者は「なぜ?」という疑問を持ち、答えを求めて記事を読み進めることになります。
深い話を引き出すための事例紹介
これまで説明したテクニックが実際のインタビューでどのように機能するのか、実際の事例を通して見ていきましょう。
ここでは3つの異なるタイプの経営者インタビューを取り上げ、それぞれのケースで効果的だった引き出し方を紹介します。
スタートアップ経営者インタビュー:熱意と戦略の両面を描く
スタートアップのCEOである佐藤さん(35歳)へのインタビューでは、「会社の成長戦略」という表面的な話から、「なぜこの事業にすべてを賭けるのか」という内面的な動機を引き出すことが課題でした。
ケーススタディ:テックスタートアップCEO
事前準備で見つけた重要な情報:
- 佐藤さんは大企業からの転身
- 自身の子どもの教育課題をきっかけに教育テック企業を起業
- 資金調達に8回失敗した経験がある
インタビューのブレイクスルーポイント:
「8回の資金調達失敗について、ご家族はどんな反応でしたか?」という質問をしたところ、「妻は心配していましたが、娘が『パパの作るアプリで私の勉強が楽しくなった』と言ってくれたことが支えになった」という、公式インタビューでは語られなかった本音が引き出せました。
このエピソードを記事の中心に据えることで、「ただの成功ストーリー」ではなく、「家族の支えと使命感に支えられた経営者の姿」という深みのある記事に仕上がりました。
読者からは「経営者のプライベートな動機を知ることができて、親近感が湧いた」という反応をいただきました。
伝統産業の若手経営者事例:再建プロジェクトで学んだ着眼点
私自身の経験に近い、老舗和菓子店の4代目(28歳)へのインタビューでは、「伝統と革新のバランス」をどう取るかが焦点でした。
ケーススタディ:老舗和菓子店4代目
事前準備のポイント:
- 創業100年の歴史を持つが、5年前に経営危機
- 4代目は東京の広告代理店から戻ってきた若手
- Instagramでの発信に力を入れている
効果的だった質問:
「創業者である曽祖父さんが今のSNS戦略を見たら、どう思うと想像しますか?」
この質問により、「最初は反対されるだろうと思っていたけれど、実は創業時の曽祖父も当時としては革新的なマーケティングをしていたことを古い資料で発見した。その意味では、伝統を守るとは形ではなく、挑戦する精神を受け継ぐことなのかもしれない」という深い気づきを語ってもらえました。
このインタビューでは、「伝統vs革新」という単純な対立構図ではなく、「伝統の本質とは何か」という哲学的な問いに発展させることができました。
記事公開後、同様の課題を持つ老舗経営者からの反響が特に大きく、業界誌にも取り上げられました。
女性リーダーへのインタビューで見えた共感と課題意識
女性起業家の中村さん(42歳)へのインタビューでは、「女性起業家としての苦労」という一般的なテーマを超えて、具体的な課題と解決策を引き出すことを目指しました。
ケーススタディ:女性ITコンサルタント起業家
事前準備で見つけた特徴:
- エンジニアとして20年のキャリア
- 40歳で独立、女性エンジニア支援サービスを展開
- 公式の場では「ジェンダーギャップ」についてあまり言及していない
ブレイクスルーを生んだアプローチ:
インタビュー前半は技術的な話題を中心に進め、信頼関係を構築した後、「これは記事に載せるかどうかは後で相談させてください」と前置きした上で、「女性エンジニアとしてのご自身の経験が、現在の事業にどう影響していますか?」と質問しました。
この質問から、「実は自分自身がキャリアの中で直面した無意識バイアスや、育児との両立の難しさが、現在の事業コンセプトの原点になっている」という本音を引き出せました。
また、「この話は公式には避けていたが、実は語るべき時期に来ている」という気づきにもつながりました。
記事公開後、「同じ悩みを持つ女性エンジニアから多くの共感の声をいただいた」と中村さんから報告を受け、インタビューが双方にとって価値あるものになったことを実感しました。
まとめ
インタビューで起業家の本音を引き出すことは、単なるテクニックではなく、「相手の物語を本気で理解したい」という姿勢から生まれるものです。
この記事でご紹介した方法を実践することで、限られた時間でも深いインタビューが可能になります。
特に重要なポイントをまとめると:
✔️ 事前準備の徹底が成功の鍵
- SNSや過去の発言から相手の「核」となる価値観を見つける
- 質問リストは必須・展開・予備の3段階で設計
- 最初の3分のアイスブレイクで信頼関係の土台を築く
✔️ インタビュー現場では会話の流れを重視
- 「なぜ」で深掘りし、エピソードで具体性を持たせる
- 沈黙を恐れず、相手の思考を待つ
- 認めてから踏み込む質問で本音を引き出す
✔️ 記事構成では読者目線を忘れない
- 「自分もできるかも」と思える要素を盛り込む
- SNSで共有したくなる要点整理を行う
- 見出しとリード文に特に注力する
最後に、インタビューは相手の時間と経験を分けてもらう貴重な機会です。
起業家の語る言葉の一つひとつには、数々の試行錯誤や失敗、成功体験が凝縮されています。
その本質を読者に届けることで、記事は単なる情報提供を超えた価値を持つことができるのです。
あなた自身のインタビュースキルが、この記事をきっかけに一歩前進することを願っています。
そして、素晴らしいインタビュー記事が生まれることを楽しみにしています。