並木千景と申します。
女性誌の編集部で20年ほど、著名人の半生や家族の話を聞く仕事をしてきました。
いまはフリーで、女性経営者の生き方や、血のつながりを超えた家族について書いています。

「60歳で子育てを始める」と聞いて、どんな反応をするでしょうか。
無理でしょう、と思う人が多いはずです。
私も里親制度の勉強会に通い始めるまでは、そう思っていました。

ところが調べてみると、60代で子どもを育てている人は、想像よりずっと多くいます。
制度の上でも、年齢だけで門前払いされることはほとんどありません。

この記事では、人生の後半で親になった人がどれくらいいるのか、年齢の壁が実際にはどこにあるのか、そして先に始めた人たちが何を語っているのかを、公的な統計と本人の言葉を見ながら整理します。

60歳で親になる人は、どれくらいいるのか

出産では年間100人ほど、里親では3割近く

まず、自分で産むという選択から見ていきます。
厚生労働省の人口動態統計によると、2024年に50歳以上で出産した女性は125人でした。
45歳以上まで広げても1,734人で、出生数全体のおよそ0.25%です。

つまり50歳を過ぎて出産する人は、全国で年に100人と少し。
テレビで話題になるのは、それだけ珍しいからです。

ところが里親に目を移すと、景色がまるで違います。
こども家庭庁が2024年2月に公表した児童養護施設入所児童等調査の概要(令和5年2月1日現在)には、里親の年齢構成が載っています。

里親の年齢里父里母
50歳代29.3%36.0%
60歳以上28.8%27.7%

里父の28.8%、里母の27.7%が60歳以上です。
50代まで含めると、里親の6割前後が50歳を超えています。

里親の世界では、60代は少数派どころか主流に近い年齢層なのです。
この数字を初めて見たとき、私は自分の思い込みを恥ずかしく思いました。

養子縁組となると、60歳以上は2%台

ただし、養子縁組を前提にした場合は話が変わります。
こども家庭庁が2025年11月の審議会に出した資料特別養子縁組の現状に、養親を希望する人の年齢構成があります。

令和5年度に児童相談所へ養子縁組里親として新規登録した人のうち、60歳以上は養父で2.5%、養母で2.1%でした。
民間のあっせん機関への申し込みでは、養父0.3%、養母0.0%です。

養子として迎えたい人の中心は40代で、50歳を超えると急に減ります。
特別養子縁組の成立件数自体も、令和6年で563件と多くありません。

60歳で養子を迎えるという選択は、制度上は可能でも、実際に選ぶ人はごくわずかということです。
だからこそ、それを実行した人の話には耳を傾ける価値があると思っています。

60歳で双子を迎えた経営者、たかの友梨さんの場合

エステティックサロンを全国に展開する、たかの友梨さんの話をします。
1948年に前橋で生まれ、3歳で養母の八千代さんに引き取られて新潟で育ったことは、上毛新聞の連載や週刊女性PRIMEの取材記事で本人が語っています。

自分が養子だと知ったのは10代半ば、戸籍謄本を取り寄せたときだったそうです。
2022年にフジテレビの番組に出演した際には、罵倒していた母が実は他人の子を育ててくれていたのだと気づいた瞬間、感謝に変わった、と話していました。

その彼女が60歳のとき、双子の赤ちゃんを養子として迎えたと、2008年に週刊誌で報じられました。
医師で作家の鎌田實さんも、2010年に本人と会った際のブログに「60歳で、双子の赤ちゃんを養子に引き取って育てているとも聞いた」と書いています。

本人が公の場で養子縁組の経緯を詳しく語った記録は、私が探した範囲では見つかりませんでした。
ただ、2026年6月の週刊女性PRIMEの記事には、再婚した夫と2人の娘と暮らしていると書かれています。

2026年1月、たかの友梨さんは自身のInstagramに、長女の友花さんが誕生日に肖像画を描いて贈ってくれたことを投稿しました。
これまでの人生でもらった中で一番うれしい贈り物だ、泣けてくる、という短い文章です。
全文はたかの友梨さんが子供からの誕生日プレゼントについて綴ったInstagramの投稿で読めます。

報道の通りなら、60歳で迎えた赤ちゃんが、78歳の誕生日に肖像画を描いたことになります。
その時間の長さを、この一枚から感じました。

たかの友梨さんは1995年から、群馬県前橋市の児童養護施設「鐘の鳴る丘少年の家」を運営する法人の後援会長も務めています。
公式サイトの年表には、体育館の寄贈や、毎年の子どもたちのディズニーランド招待が並んでいます。
自分が育てられた恩を、施設の子どもたちと、自分の家庭の両方に返している人だと感じました。

年齢の壁はどこにあるのか。法律・自治体・民間で違う

たかの友梨さんのような選択をしたいと思ったとき、最初にぶつかるのが「年齢制限があるのでは」という不安です。
実は、年齢の扱いは法律・自治体・民間団体の3つの層で違います。

年齢の扱い
法律(民法)特別養子縁組の養親は25歳以上。上限の定めはない
自治体(児童相談所)一律の上限なし。養育できる年齢かを個別に判断
民間あっせん団体多くが独自に上限を設定。45歳前後が目安の団体が多い

まず法律です。
法務省の養子縁組について知ろうにある通り、特別養子縁組の養親は原則25歳以上の夫婦で、養子は請求時に15歳未満という要件があります。
養親の年齢に上限はありません。

次に自治体です。
かつて国の里親委託ガイドラインには、子どもが20歳になったとき里親がおおむね65歳以下であることが望ましい、という目安がありました。
現在のガイドラインではこの記述が消え、養育可能な年齢かを判断し、年齢の一律の上限は設けない、と書き直されています。

東京都もかつては養育家庭の里親を65歳未満としていましたが、現在は撤廃しています。
現在の東京都里親登録基準に年齢の上限はなく、養子縁組里親については25歳以上という下限だけが残っています。
おおむね65歳以上の申請者には、1年以内の健康診断書の提示を求める運用です。

最後に民間団体です。
ここが一番厳しく、認定NPO法人フローレンスは目安として45歳以下、一般社団法人ベアホープは子どもとの年齢差45歳まで、あんしん母と子の産婦人科連絡協議会は委託時点で47歳以下と、それぞれ公式サイトで条件を示しています。
新生児や乳児の委託が中心なので、子どもが成人するまで育てられるかを重く見ているためです。

つまり、60歳で赤ちゃんを養子に迎える道は、民間ではほぼ閉じています。
児童相談所を通す道や、養育里親として関わる道は、年齢だけで閉ざされてはいません。

人生の後半で親になった人たちが語ること

制度の話だけでは、実感がつかめないと思います。
先に始めた人たちの声を紹介します。

50歳の直前に特別養子縁組で娘を迎えた石井留衣さん・大輔さん夫妻は、WebメディアUMUの取材で、経緯を語っています。
40代で不妊治療を重ねたあと里親登録をし、民間団体に総当たりで連絡したそうです。
電話で年齢を伝えた時点で断る団体もあった一方、西日本の団体は「まずは直接会いたい」と言ってくれました。

親族からは「夫婦二人の人生でもいいのでは」という声もあったといいます。
けれど赤ちゃんを実際に見せると、その不安は一瞬で消え、みんなが応援に回ったそうです。

60歳でシングルの養育里親になった世田谷区の女性は、里親支援団体ONE LOVEの紹介記事で、登録から委託まで数年待ち、半分あきらめかけていたと振り返っています。
迎えてからの日々については「この子が来てくれなければ知らなかった音楽や芸能人が沢山あって、毎日旅にでているみたいな気持ち」という言葉を残しています。

こども家庭庁の里親制度の特設サイトには、69歳で里親を始めた大阪府の男性の話も載っています。
児童養護施設に30年近く勤めたあと退職し、残された時間を使って貢献したいと考えたそうです。

厳しい言葉もあります。
東洋経済オンラインの2016年の記事で、里親支援に携わるNPO職員はこう語っています。
里親の目的は親になることではなく、預かった子どもの将来に良い変化をもたらす存在になることだ、と。

私はこの言葉を、自分に向けられたものとして読みました。
「親になりたい」という気持ちが強すぎると、子どもの側の事情が見えなくなります。
年齢を重ねてから始める人ほど、この視点を先に持っておいたほうがいいと思います。

始める前に考えておきたいこと

勉強会で講師の方から繰り返し言われたことと、取材で聞いた話をまとめると、考えておくべき点は次の4つに絞られます。

  • 子どもが20歳になるとき、自分は何歳か。そのとき働いているか、体は動くか
  • 夜泣きや送迎など、日々の体力を誰と分担するか。夫婦だけでなく親族や地域の支えがあるか
  • 自分に万一のことがあったとき、誰が子どもを育てるか。養親が亡くなっても親権は実親に戻らず、家庭裁判所が未成年後見人を選びます。遺言で指定しておく方法があります
  • 養子であることをいつ、どう伝えるか。こども家庭庁の専門委員会でも、真実告知は縁組後の大きな課題として扱われています

4つ目については、たかの友梨さん自身が「知らされずに育ち、10代で知って傷ついた側」の当事者です。
だからこそ彼女は施設の子どもたちの心のケアにこだわるのだと、取材記事を読んで感じました。

60歳からでも選べる関わり方

「養子を迎える」以外にも、子どもの人生に関わる形はあります。
年齢を重ねてから始める人に向いている順に並べてみます。

関わり方内容年齢の扱い
週末里親(東京都ではフレンドホーム)施設で暮らす子を週末や長期休みに数日預かる年齢要件の記載なし
養育里親実親のもとへ戻るまで、または継続的に家庭で育てる一律の上限なし。中高生の委託を検討
養子縁組里親養子縁組を前提に育てる25歳以上。子どもとの年齢差を考慮
施設への支援寄付、行事の手伝い、学習支援など制限なし

養育里親については、現行のガイドラインが、年齢の高い養育者には中学生や高校生の委託を検討する、と明記しています。
子育て経験のある60代が、思春期の子どもの受け皿として求められているということです。

たかの友梨さんは、赤ちゃんを迎えることと施設を支えることの両方を選びました。
どちらか一方でも、子どもにとっては大人が一人増えることに変わりありません。

まとめ

60歳から子育てを始める人は、里親の世界では3割近くいて、少数派ではありません。
養子縁組となると60歳以上は2%台に減りますが、法律にも児童相談所にも年齢の上限はなく、厳しいのは民間団体の独自基準です。

たかの友梨さんは60歳で双子を迎えたと報じられ、2026年の誕生日に、娘さんから肖像画を受け取りました。
先に始めた人たちが口をそろえるのは、迎える前の不安より、迎えてからの日々のほうがずっと豊かだったということです。

ただし「親になりたい」という気持ちだけで進むと、子どもの側が見えなくなります。
20年後の自分の年齢、体力の分担、万一の備え、真実告知。
この4つを先に考えてから、児童相談所の里親相談窓口を訪ねてみてください。

私も勉強会に通い始めたのは50歳を過ぎてからでした。
遅いと思っていましたが、いま振り返ると、思い立った日が一番若い日だったのだと思います。