スコアカードに印刷された数字に、一喜一憂していませんか。
その数字の裏側で、コースが静かに語りかけてくる声を聞き逃してはいないでしょうか。
1番ホールのティーに立つと、湿った黒土の香りがします。
これは、このコースの改修を手掛けた世界的設計家が愛した、故郷の香りかもしれません。
はじめまして、芝山景介と申します。
元々はランドスケープデザイナーとして土地の声を聴き、その後キャディマスターとして20年間、延べ2万人以上のゴルファーと共にコースを歩いてきました。
多くの人が見過ごしてしまう、バンカーひとつ、木一本に込められた設計者の意図と、大地が紡いできた物語。
この記事を読み終えた時、あなたの目の前の景色は単なる「コース」から、壮大な「物語」へと変わることをお約束します。
さあ、私と一緒に、あなたがまだ知らないオリンピックナショナルゴルフクラブの本当の顔を探しにいきましょう。
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目次
なぜ多くのゴルファーが本当の魅力を見過ごすのか?
オリンピックナショナルゴルフクラブを訪れたゴルファーは、口を揃えてこう言います。
「美しい、しかし、なんと戦略的なコースだ」と。
その評価は間違いではありません。
しかし、その言葉だけでは、このコースが持つ本当の深さの半分も語れていないのです。
スコアカードが曇らせる設計者の「囁き」
キャディマスターとして長年グリーンサイドに立っていると、面白いことに気づきます。
それは、「スコアが良い日」と「ゴルフが心から楽しかった日」は、必ずしも一致しないということです。
多くのゴルファーは、1打でもスコアを縮めようと、目の前のボールとピンだけを見てしまいがちです。
もちろん、それもゴルフの醍醐味の一つでしょう。
しかし、その集中が、設計者がコースのあちこちに隠した「囁き」やヒントを聞き逃させてしまうのです。
なぜ、あのバンカーはあそこに口を開けているのか。
なぜ、フェアウェイはこちら側に傾斜しているのか。
その一つひとつに、設計者の意図という名の物語が隠されています。
「戦場」から「物語」へ:ゴルフ観を変える第一歩
私の信条は「スコアを追うな、ストーリーを歩け」です。
これは、デザイナーとして自然との対話に破れ、キャディとしてコースに仕えることで得た、私のゴルフ人生そのものです。
ゴルフ場を、攻略するだけの「戦場」として見るのをやめてみませんか。
そして、設計者と知的な対話を交わし、自然の息吹を感じる「歩く庭園」として捉え直してみるのです。
そうすれば、バーディーやパーといった結果だけでなく、そのプロセスにある無数の発見に心が満たされるはずです。
その第一歩が、あなたのゴルフ観を根底から変えることになるでしょう。
設計思想を読む:元デザイナーが解剖するコースの骨格
このクラブが特別なのは、成り立ちそのものに物語があるからです。
元々、個性の異なる二つのゴルフ場が一つになることで、この壮大な45ホールの舞台は生まれました。
その骨格には、二人の天才の思想が色濃く反映されています。
大地との対話:造成前の地形図が語るもの
私の書斎には、この土地がゴルフ場になる前の古い地形図があります。
デザイナー時代の苦い経験から学んだことですが、人間の都合だけで自然をコントロールしようとすれば、必ずしっぺ返しを食らいます。
優れたコースとは、元々その土地が持っていた地形、つまり大地の声を聴き、その個性を最大限に活かして設計されたものです。
このオリンピックナショナルゴルフクラブは、まさにそのお手本のような場所です。
造成前の緩やかな丘陵や谷のラインが、現在のホールの戦略性に巧みに取り入れられています。
ただ美しいだけでなく、どこか懐かしく、歩いていて心地よいのは、設計者が大地に敬意を払っている証拠なのです。
天才たちの競演:ファジオとダイ、二人の巨匠の思想
このコースの魅力を語る上で、二人の天才設計家の存在は欠かせません。
WESTコースの改修を監修したジム・ファジオと、EASTコースを設計したダイ・デザイン社。
彼らの思想は、同じ大地を舞台にしながらも、全く異なるアプローチを見せてくれます。
- WESTコース(ジム・ファジオ):彼の設計は「ファジオマジック」と称され、視覚的な美しさと戦略的な罠が見事に融合しています。一見すると広くプレーしやすそうに見えて、実は的確な場所にボールを運ばないと次の一打が難しくなる。プレーヤーの挑戦意欲を掻き立てる、モダンで知的な設計です。
- EASTコース(ダイ・デザイン社):こちらは、よりクラシカルで優美な印象を受けます。池やクリーク、そして特徴的なバンカーの造形美は、まるで絵画のようです。しかしその美しさの裏には、大胆さと繊細さを兼ね備えた確かな戦略性が隠されています。
それはまるで、異なる楽団が同じ大地で奏でる壮大な交響曲のようです。
二つの個性がぶつかり合うのではなく、互いを引き立て合い、このクラブに比類なき深みを与えているのです。
2万人のゴルファーと歩いたキャディマスターが語る「名物ホールの裏の顔」
コースの本当の顔は、設計図や評判だけでは分かりません。
風の通り道、季節によるグリーンの変化、そしてそこで繰り広げられた数多のゴルファーたちのドラマ。
長年、このコースと共に生きてきた私だからこそお伝えできる、名物ホールの裏の顔を少しだけお話ししましょう。
WESTカメリア1番:あのバンカーは「美しき罠」
ティーグラウンドに立つと、広々としたフェアウェイが目の前に広がり、誰もが伸び伸びとドライバーを振りたくなります。
特に右サイドのバンカー群は、その造形美から多くの人の目を惹きつけます。
しかし、キャディとして2万人以上のプレーを見てきた私の経験上、本当に注意すべきはそこではありません。
多くの人が右を警戒するあまり、安全なはずの左サイドにボールを運びます。
しかし、そこからグリーンを狙うと、微妙なアンジュレーションが牙を剥き、セカンドショットを難しくさせるのです。
あの右のバンカーは、プレーヤーの視線と意識を奪うための「美しき罠」。
本当に怖いのは、左サイドに潜む設計家のため息なのです。
EASTエーデルワイス17番:池が問いかける「勇気と覚悟」
池に浮かぶように配置された、美しいショートホール。
多くのゴルファーがこのホールで一喜一憂する姿を見てきました。
ある人はプレッシャーに負けてボールを池に沈め、ある人は勇気ある一打でピンそばにつけて喝采を浴びる。
このホールが問いかけているのは、単なるショットの技術ではありません。
それは、自らの力量を冷静に判断する「覚悟」と、決めたことを実行する「勇気」です。
風を読み、クラブを信じ、心を決めて振り抜く。
ゴルフというスポーツの本質が、この小さなホールに凝縮されているように私には思えるのです。
スコアを超えた愉しみ方:コースとの対話を深める3つの視点
ここまで読んでくださったあなたは、きっともうスコアカードの数字だけでは満足できなくなっているはずです。
最後に、このコースとの対話をさらに深めるための3つの視点をご紹介します。
視点1:景観を愉しむ(光と影、季節の移ろい)
まずは、クラブを置いて、周りの景色をゆっくりと眺めてみてください。
クラブハウスから望むコースの全景、朝日に照らされて輝くフェアウェイ、木々が織りなす光と影のコントラスト。
春には桜やシバザクラが咲き誇り、秋には燃えるような紅葉がコースを彩ります。
次のラウンドでは、スコアカードの代わりに、心に風景を刻んでみませんか。
視点2:戦略性を読み解く(設計家との知的なゲーム)
次に、設計家の意図を読み解くゲームに挑戦してみましょう。
なぜ、このバンカーはこの形なのか。
なぜ、グリーンはこちらに傾いているのか。
「なぜ?」と問いかけながら歩くことで、コースはあなたにヒントを与えてくれます。
それはまるで、設計家との時空を超えた知的なチェスゲームのようです。
ゴルフの神様は、細部に宿るんですよ。
視点3:物語を感じる(歴史とエピソードに耳を澄ます)
このクラブが、二つの歴史あるゴルフ場の統合によって生まれたことを思い出してください。
あなたが今立っているその場所は、かつて違う名前で呼ばれ、多くのゴルファーたちの喜怒哀楽を見守ってきました。
コースの片隅にある一本の木にも、語られざる物語があるのかもしれません。
プレーをしながら、この土地が重ねてきた時間に思いを馳せる。
それもまた、ゴルフの奥深い愉しみ方の一つです。
よくある質問(FAQ)
長年キャディマスターを務めていると、様々な質問をいただきます。
ここでは、特によく聞かれる質問に、私なりの言葉でお答えしましょう。
Q: 初心者でもオリンピックナショナルゴルフクラブを楽しめますか?
A: もちろんです。
スコアを気にせず、まずはWESTコースの広々としたフェアウェイを散策する気分で歩いてみてください。
私がこの記事で紹介した「景観を愉しむ」視点を持てば、腕前に関係なく忘れられない一日になりますよ。
大切なのは、コースと対話することです。
Q: このコースのベストシーズンはいつですか?
A: 全ての季節を見てきましたが、特におすすめなのは春の桜と秋の紅葉の時期です。
WESTコースはシバザクラをはじめ、多くの花々が咲き誇ります。
ただし、設計家が意図したコースの骨格が最もよく見えるのは、芝が短い冬枯れの季節かもしれません。
どの季節にも違う顔があり、それを見つけるのも楽しみの一つです。
Q: プレー前に知っておくべき、このコースならではの注意点はありますか?
A: 技術的な注意点よりも、心構えを一つ。
このコースは、力でねじ伏せようとすると、必ず牙を剥きます。
特にグリーンのアンジュレーションは絶妙です。
デザイナー時代の失敗から学んだことですが、自然の声に耳を傾け、謙虚に向き合った者だけが、このコースの微笑みを受け取ることができるのです。
Q: 食事が美味しいと評判ですが、元キャディマスターとしてのおすすめメニューは?
A: 20年間、数えきれないほどいただきましたが、私が愛してやまないのはEASTコースの伝統的なビーフカレーです。
プレーの戦略を練りながら、あるいは仲間と今日のラウンドを振り返りながら食べるあの味は格別です。
コースとの対話を楽しんだ後のご褒美に、ぜひどうぞ。
Q: 芝山さんにとって、オリンピックナショナルゴルフクラブとはどんな場所ですか?
A: 私の人生を大きく変えてくれた「生きた庭園」であり、師でもあります。
デザイナーとしての挫折、キャディとしての開眼、そしてライターとしての今。
すべてがこの場所に繋がっています。
ここは単なるゴルフ場ではなく、訪れる人々の物語が幾重にも重なる舞台なのです。
まとめ
18ホールのプレーは、18の章からなる一編の物語を読み進める旅のようなものです。
私たちは今日、その物語のほんの入り口を覗いただけかもしれません。
しかし、この記事でご紹介した視点を持てば、あなたの次のラウンドは、単なるスコアの記録ではなく、忘れられない記憶として刻まれるはずです。
いいコースは、歩くだけでいい。
その言葉の意味を、きっと実感していただけるでしょう。
次にあなたがティーグラウンドに立ったら、ぜひ16番ホールのグリーン奥に立つ一本松に注目してみてください。
きっと、コースがあなたに微笑みかけてくれますよ。
あなたの次の18ホールが、忘れられない物語になりますように。