はじめまして。マンション管理士・一級建築士の吉田 誠(よしだ まこと)と申します。これまでマンション管理コンサルタントとして、100棟を超える大規模修繕工事の計画・実施に携わってきました。その現場で最も多く耳にするのが、「1回目はなんとかなったけれど、2回目の見積もりが想定より全然高い……」というお声です。

2回目・3回目の大規模修繕は、1回目とは比べものにならないほど費用が膨らむことがあります。その理由を事前に把握しておかないと、修繕積立金の不足が突然発覚し、管理組合全体を巻き込む深刻な問題へと発展しかねません。

この記事では、なぜ2回目・3回目の修繕で費用が跳ね上がるのか、その具体的な理由と、費用増加を見据えた事前対策をわかりやすく解説します。今まさに1回目の修繕が終わった方にも、これから2回目を控えている方にも、ぜひ役立てていただければと思います。

大規模修繕の基本をおさらい

大規模修繕とは何か

大規模修繕とは、マンションの外壁・屋上・共用設備などが経年劣化した際に、定期的に行う大がかりな修繕工事のことです。日常的な小修繕と異なり、足場を組んで建物全体をまとめて修繕するのが特徴です。

国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」では、大規模修繕の修繕周期の目安として12〜15年程度が示されています。令和3年度の実態調査でも、全体の約7割が12〜15年周期で実施されているというデータが確認されています。マンションの寿命が50〜60年とすれば、多くの場合で3〜4回の大規模修繕が行われる計算になります。

1回目・2回目・3回目の工事内容の違い

大規模修繕は、回数を重ねるたびに工事内容が変わります。建物の劣化が進み、耐用年数を迎える設備が増えていくためです。

回数実施時期の目安主な工事内容
1回目築12〜16年外壁塗装・屋上防水・鉄部塗装・シーリング打替えなど表層的な修繕が中心
2回目築24〜30年1回目の内容に加え、給排水管・エレベーター・機械式駐車場などの設備更新
3回目以降築36〜48年さらに大規模な設備更新、バリアフリー化・耐震補強なども加わる

1回目は「補修」で対応できる箇所がほとんどですが、2回目以降は「取替え・更新」が必要な設備が次々と登場します。これが費用増加の根本的な構造です。

1回目・2回目・3回目で費用はどう変わるのか

国土交通省が実施した「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、工事回数別のマンション全体での費用傾向は以下のとおりです。

工事回数最も割合が高い価格帯
1回目4,000万円〜6,000万円
2回目6,000万円〜8,000万円
3回目以降6,000万円〜8,000万円 および 1億円〜1億5,000万円

1回目と2回目を比較すると、費用は20〜30%程度増加するケースが一般的とされています。3回目は2回目のさらに1.5倍程度になることもあると言われており、管理組合にとって大きな財政的プレッシャーとなります。

なお、戸あたりの修繕費用については、マンションの年代・戸あたり床面積・外壁仕上げ材の違いなどにより、単純な比較が難しい面もあります。ただし、床面積あたりで見ると修繕回数を重ねるほど単価が上昇する傾向があることも、同調査で確認されています。

2回目・3回目で費用が跳ね上がる理由

修繕箇所が増え、工事範囲が拡大する

1回目の修繕が表層的な工事で済むのは、建物がまだ比較的新しく、劣化が軽度なためです。一方、2回目になると、1回目で先送りになっていた箇所や、時間の経過とともに新たに劣化した部位まで対象に含まれます。

特に2回目以降で増える工事として、給水設備の更新・建具や金物の取替えが挙げられます。国土交通省の実態調査でも、1回目に比べて2回目では「給水設備」や「建具・金物等」の実施割合が大幅に増えることが示されています。工事範囲の拡大が、費用増加の直接的な原因のひとつです。

設備の「補修」が「取替え」へと変わる

最も費用に影響するのが、設備の「補修」から「取替え・更新」への転換です。1回目は調整や部分補修で対応できた設備も、2回目以降は耐用年数を迎えて丸ごと交換が必要になります。

主な設備と更新の目安をまとめると、以下のとおりです。

  • エレベーターのリニューアル:耐用年数20〜25年(1基あたり500〜1,500万円程度)
  • 機械式駐車場の取替え:耐用年数20年前後
  • 貯水槽の交換:耐用年数25年前後
  • 屋上露出防水の撤去・新設:耐用年数24年前後
  • 給排水管の更新:耐用年数30〜40年

中でもエレベーターのリニューアルは単価が高く、50戸規模のマンションでも1基あたり10〜30万円の戸あたり負担増となることがあります。これらが2回目の修繕に重なることで、費用が一気に膨らみます。

バリアフリー化・性能向上工事が加わる

3回目の大規模修繕(目安:築36〜48年)になると、単なる劣化修復にとどまらず、住民の高齢化に対応したバリアフリー化や、時代に合わせた設備のグレードアップが求められることがあります。

具体的には、次のような改修が挙げられます。

  • 階段・廊下への手すり設置
  • エントランスへのスロープ設置
  • オートロック・インターホンなどセキュリティ設備の刷新
  • サッシの断熱改修(省エネ改修)
  • 共用部の照明LED化

こうした「性能向上」を伴う工事は、修繕の枠を超えた改修コストが発生するため、1〜2回目とは費用感が大きく変わります。3回目は「修復」にとどまらない「再構築」の性格を持つ工事と言えるでしょう。

深刻な構造劣化による追加工事が発生しやすくなる

築年数が経過するほど、コンクリートの中性化による鉄筋の腐食・爆裂、外壁タイルの浮きや剥落リスクなど、構造的な劣化が顕在化してきます。3回目の修繕では、外壁の部分的な打替えや、給排水管の全面更新が必要になるケースも増えます。

こうした劣化を見落とした状態で工事に入ると、着工後に追加工事が発生し、当初の見積もりを大幅に超過するケースがあります。大規模修繕の費用計画では、「想定外の追加費用」が発生しうることを常に念頭に置く必要があります。

物価上昇・人件費の高騰が費用を押し上げる

近年、建設資材の価格上昇と人件費の高騰が顕著に続いています。数年前に作成された長期修繕計画の金額が、現在の実態に合わなくなっているケースは非常に多くあります。

一般財団法人 建設物価調査会が公表している建設物価指数を見ると、2015年と2025年頃では建設用資材の価格に大きな開きが生じています。修繕積立金の設定額が実態を下回ることが全国的に問題視されており、物価変動は管理組合が直接コントロールできない要因ですが、こうした外部環境の変化を踏まえた長期修繕計画の定期的な見直しが欠かせません。

修繕積立金の不足問題を知っておこう

なぜ積立金が足りなくなるのか

修繕費用が増加する一方で、修繕積立金の不足に直面するマンションは少なくありません。国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の中でも、「2回目・3回目の大規模修繕に向けた適切な長期修繕計画の見直しが行われていない例も見られる」と明確に指摘されています。

積立金が不足しやすい主な原因は、次の点にあります。

  • 新築時の長期修繕計画が楽観的な想定で作られており、積立額の設定が低すぎる
  • 「段階増額積立方式」を採用しているマンションで、値上げの合意が得られず積立額が据え置きになっている
  • 物価・人件費の上昇が計画に反映されていない
  • 1回目の修繕で修繕積立基金をほぼ使い切り、2回目に向けた積立が追いついていない

1回目の修繕は、新築時に集めた修繕積立基金がクッションになるため比較的乗り越えられることが多いです。しかし、2回目以降は毎月の積立金が実質的な唯一の原資となるため、計画的な積立が不可欠です。

資金が不足した場合の対処法

修繕時期を迎えて資金が足りないことが分かった場合の主な対処法は、以下のとおりです。

  • 区分所有者から一時金を徴収する(合意形成が難しいケースも多い)
  • 住宅金融支援機構や民間金融機関から借り入れる(利子の負担が発生する)
  • 工事の優先順位をつけ、一部を先送りにする(後の費用増加につながるリスクあり)
  • 長期修繕計画を見直し、修繕積立金を増額する

いずれの方法も、問題の根本解決にはなりません。修繕積立金の不足は「気づいたときには手遅れ」になりやすいため、早い段階での対策が最善です。

費用高騰を防ぐための事前対策

長期修繕計画を定期的に見直す

長期修繕計画は、作成時点の情報に基づいた「見通し」にすぎません。建物の実際の劣化状況や、物価・人件費の変動に応じて、5年ごとを目安に見直すことが国土交通省のガイドラインでも推奨されています。

見直しの際は、修繕積立金の残高と将来の修繕費用の見通しを照らし合わせ、資金ショートが起きないよう早めに増額の検討を始めることが大切です。「今は問題ない」と思っていても、5〜10年後に一気に不足が顕在化するパターンが非常に多く見られます。

2回目の修繕で「先送り」をしない

2回目の大規模修繕で「費用を抑えたい」という理由から工事を先送りにすると、3回目の修繕費用がさらに膨らむリスクがあります。耐用年数を超えた設備は、先送りにしても必ずいつか対処が必要になります。また、放置している間に突然の故障が発生するリスクも高まります。

20〜25年で更新時期を迎える設備(機械式駐車場・貯水槽・屋上防水など)は、2回目の修繕時かその前後に対処しておくことが、長期的なコスト管理として合理的です。

建物診断を計画的に実施する

大規模修繕の計画を正確に立てるためには、建物の現状劣化をきちんと把握することが欠かせません。建物診断(劣化診断)は、修繕の必要性と優先順位を客観的に判断するための重要な手段です。

修繕工事の着工から完工まで通常1〜2年かかることを考えると、修繕時期の2〜3年前には建物診断を実施し、工事内容の精査を始めることが理想的なスケジュールです。診断なしに工事に入ると、着工後の追加工事が増え、費用が膨らみやすくなります。

第三者専門家を積極的に活用する

管理会社からの提案をそのまま受け入れるのではなく、中立的な立場の第三者専門家(マンション管理士・一級建築士など)のアドバイスを取り入れることで、適正な工事費用・内容での修繕を進めやすくなります。

セカンドオピニオンを活用した事例では、管理会社提案の工事費用から数千万円規模の削減に成功したケースも報告されています。大規模修繕は管理組合にとって高額な意思決定の場ですから、外部の専門的知見を借りることは非常に有効です。

建物管理や各種調査・測量業務に強みを持つ専門企業の力を借りることも、計画精度の向上に貢献します。たとえば株式会社T.D.Sの会社概要をご覧いただくと、管理台帳図の作成・各種調査・測量といった専門業務を手がける企業のひとつとして参考になります。建物管理に関するデータ整備や調査を外部の専門会社に依頼することで、管理組合がより精度の高い計画立案を行いやすくなります。

また、国土交通省の「マンション総合情報サービス」では、管理組合向けの相談窓口や専門家派遣制度も紹介されています。詳しくは国土交通省 マンションに関する統計・データ等のページをご参照ください。

修繕積立金の積立方式と増額タイミングを見直す

新築分譲マンションでは、購入者の月額負担を低く見せるために「段階増額積立方式」が採用されることが多いです。ただし、この方式は値上げのタイミングで区分所有者の合意が得られなかった場合、積立額が事実上据え置かれてしまうリスクがあります。

長期的に安定した積立を目指すなら、当初から適正額を積み立てる「均等積立方式」への移行を検討することも選択肢の一つです。どちらの方式であっても、定期的に積立額が実態に見合っているかを確認し、必要であれば早期に増額を実施することが重要です。

まとめ

2回目・3回目の大規模修繕で費用が跳ね上がる主な理由は、次の点にまとめられます。

  • 修繕箇所が増え、工事範囲が大きく拡大する
  • 補修で済んでいた設備が「取替え・更新」へと移行する
  • バリアフリー化・性能向上工事が加わる
  • 構造的な劣化に伴う追加工事が発生しやすくなる
  • 物価上昇・人件費の高騰が費用を押し上げる

こうした費用増加を見据えた事前対策として、長期修繕計画の定期的な見直し(5年ごと推奨)、2回目の修繕で工事を先送りにしないこと、計画的な建物診断の実施、第三者専門家の活用、修繕積立金の適正管理が鍵となります。

「まだ先の話」と思っているうちに準備を始めることが、将来の費用増加と資金不足を防ぐ最善策です。マンションの資産価値を長く守るためにも、今日から長期修繕計画と修繕積立金の現状を改めて確認してみることをお勧めします。